鴨長明の名は、方丈記の作者として知らぬ人はいないでしょう。はっきりしないけれど「平家物語」の作者ではないか? という伝説もある。
そんな鴨長明の小説を読んでみました。フィクションではありますが、中世の琵琶楽について興味深い箇所があります。
154ページから、少年桜丸と少女かえでが登場して、琵琶の話になる。
和歌は言の葉、対して楽は音の葉なのです。緩急、間合い、高低、強弱、その組み合わせで意味をつくる。感情、あるいは心といいかえてもいいですが、心から出たまことの言葉もあれば、腹にあるものと口から出る言葉が異なる場合もありますがね。それを音色と旋律であらわすのが楽なのです。言葉なき言葉。そう考えれば、和歌と相通じるものがございましょう。さすれば、合奏はさしずめ歌合にあたりましょうか。競い合いながら連動して、一つの調和をつくりあげる。まさに妙なるおもしろさにございますな」